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Volando voy ぶっ飛ばせ

スペイン映画 (2006)

ホアン・カルロス・デルガド・カバレロ(Juan Carlos Delgado Caballero)(1969.4.30生まれ)の凄まじい少年期をかなり脚色して描いた作品。彼の一家は、右の写真のようなアパートの2階に住んでいた極貧の8人家族で、1980年に撮られた右下の写真のように、ホアン・カルロスを除きすべて女の子だった〔ホアン・カルロスは最上段〕。彼のことを簡単に紹介したサイト(https://www.elmundo.es)には、「彼は6歳の時、ブイトラゴ・デル・ロソヤ(Buitrago del Lozoya)〔家のあるヘタフェの約75キロ北にある小さな村〕のサマーキャンプで初めて盗んだ。7歳で、彼はスーパーマーケット「シマゴ」で万引きをしていた。8歳では、革ジャケットや自転車を盗んで近所を怖がらせたが、安価なものばかりだった。9歳で店を襲い、車を盗んだ。10歳で、大胆にも銀行を襲った。空の銃で。それが彼のルールだった。もし捕まっても、罪が軽くなるから。首都の南部警察は彼をマークするようになり、11歳で150の逮捕歴があった」と、1年ごとの “進化” が書かれている。これほど恐ろしい子供は、世界中を探しても恐らく前例がないのでは、と思わせる。映画は、その “活躍” ぶりを色々な角度から描いている。別のサイト(https://www.20minutos.es)には、「彼は、体がとても小さく、貧しい食事のためにとりわけ痩せていた」と書かれ、そのため、彼が盗難車を運転していても、外から姿が見えない理由として挙げられている。これは、映画の中でも生かされている。また、同じサイトには、エル・ペラの名前の由来として、本人の言葉で、「私はヘタフェに住んでいて、盗んだ時計幾つかをさばきにマドリードに行きました。寒くて、雨が降り出し、私は薄着でした。その時、ローデン・コート〔オーストリアの貴族が着用していた伝統的なハンティング用の防寒コート〕を着ていた男の子を見ました。私はそれを男の子から取り上げ、ヘタフェに戻ると、友だちが、私のことを “ペラ〔金持ちの子〕” と呼び始めました」と話している。これも、映画の中にそっくり取り入れられている。この映画というか、ホアン・カルロスの人生が語るに値している理由は、彼が11歳にして、スペイン独自の “少年院でも、問題児を入れる学校” でもない、好きな時出入りできる、きわめて開放的なCEMUという学校に引き取られ、その設立者で、ホアン・カルロスが入った当時42歳くらいだった通称アルベルトおじさんの優しさに触れ、それまでの生き様をがらりと変え、得意だった車の運転を生かして、レーサーになったからであろう。少しずうずうしい言い方かもしれないが、3つ目のサイト(http://elpera.es)で、ホアン・カルロスは、「Yo nunca he sido un delincuente. Era un niño. Y un niño nunca es un delincuente〔私は決して犯罪者ではなかった。私は子供(小学生)だった。そして、子供は決して犯罪者ではない〕」と述べている。改心して別の人生を歩み始めたから言える言葉なのかも。

この映画で重要な意味を持つCEMUについて、その基本的精神が丁寧に書かれているサイト(https://www.cemu.es)の内容を、そのまま紹介しよう。「CiudadEscuela Muchachos (CEMU) は、少年少女のための町の学校を意味し、建築家、多面的な芸術家、職業教育者として知られるアルベルト・ムニーズ・サンチェスによって1970 年 12 月 1 日に設立されました。最終的な目標は、過酷な子供時代を過ごした子供達を社会に融合させ、彼らが地域社会で機能できる一員として活躍できるようにすることでした。これらの子供達は、「危険である」というレッテルを貼られる傾向があります。 しかし、“アルベルトおじさん” は、彼らに個人的な責任感と変化の力を植え付けることによって、批判家的に活動する市民となり、社会のレッテルを捨て去ることができると信じています。当初から、私達は、「市民ゲーム」と呼ばれる社会教育的実践を行うという問題解決法に 焦点を当てて来ました。すべての子供達が、出自・民族的背景・宗教に関係なく、歓迎され・保護され・受け入れられていると感じられる場所を創造するために、私達は民主主義のコミュニティを作り上げました。そこでは、すべての意見が大切にされ、すべての貢献が有意義であると見なされ、それぞれの子供は自分自身の意見を持っています。子供達は教育を通して そのような力を得ることができるのです。彼らは、民主的なプロセスにより意見表明を可能にする議会内での交渉・提案・計画を通じて、日常生活の調整役になります。私達は、市議会選挙(14~18歳の子供に立候補する資格があります)を実施し、毎年市長とそれに付随する議員を決定します。子供達はキャンペーンを行い、年下の居住者、生徒、ボランティア、大人を含むすべてのCEMUneroが投票することができます」。日本にはない、何と素晴らしい学校なのだろう。それが、今から半世紀以上も前に設立されたとは、信じがたい。下に、現在の外観(グーグル・ストリートビュー)と、アルベルトおじさんとホアン・カルロスが校内で今から6年前に会った時のYouTube映像の1コマを示す(右がアルベルト、左がホアン・カルロス)〔アルベルトおじさんは今も健在〕

主人公の “エル・ペラ” 役のボルハ・ナバス(Borja Navas)は、監督によれば3000人以上の中から選ばれた少年で〔LaHiguera,netには6000人と書かれている〕、これが映画初出演。その後はTVのみで活躍し、2016年まで続くが、それにもかかわらず生年月日は不明〔撮影時は11歳だったらしい〕。あり得ないような実話の主人公なので、映画初出演の少年には大変な経験だったに違いない。下の写真は、DVDの特典映像にあった、“エル・ペラ” とボルハ・ナバスが並んでインタビューを受けている1コマ。何となく似ている。
  

あらすじ

1980年代の初め。11歳のホアンが盗難車を父が通りそうな場所に乗りつけ、そのまま眠ってしまい、気がつくと車の前に立った父にじっと見られている(1枚目の写真)。父と一緒にいた男が、「ホアン、あれ、息子さんじゃないの?」〔2人とも名はホアン〕と訊くが、父が何と答えたのかは分からない。ホアンは再び眠ってしまう。今度 気が付くと、拳銃を構えた警官が2人近づいて来るのが見える。「少しでも、動くんじゃないぞ。両手を上げて車から降りろ」(2枚目の写真)。すると、ホアンは身動きせずに拳銃を取り出して警官に向ける(3枚目の写真)。警官は子供を撃てないし、相手は有名な不良なので平気で撃つかもしれず、警官は拳銃を地面に置くと手を上げる。それを見たホアンは、拳銃を置き、両手でハンドルを握る〔抵抗しないというサイン〕

次のシーンでは、警察車両に乗せられたホアンは、CEMUに連行され、施設長アルベルトの部屋に連れて行かれる。アルベルトは、ホアンの資料をじっと読んでいる。その隙に、ホアンは、机の上に置いてあった開封用のペーパーナイフを勝手に取り上げて遊ぶ。アルベルトは、紙を順にめくりながら、「銃器を使った強盗、車両盗難、警察との銃撃戦、殺人未遂…」まで来て、「殺人未遂?」と、ホアンに訊く(1枚目の写真)。「誰かを殺そうとして、殺せなかったのか?」。「ううん。だけど、誰かを刺したかも」。「殺すつもりはなかった?」。「ぜんぜん」。「殺すつもりなら、殺してただろうな。つまり、殺人も未遂もない。そうなんだろ?」。「これ、取り調べ?」。「取り調べ? まさか、そう思ったのか? ごめんよ。取り調べじゃない」。ホアンは、「出てっていいの?」の訊く(2枚目の写真、矢印はペーパーナイフ)。「ドアは、そこだ。フェンスや警備員、意志に反して 君をここに留めるものなど何もない。ここは少年院じゃない。CEMUだ。子供のための学習施設。泊まりたい子が泊まる(3枚目の写真)。「僕が出て行くのを、誰も止めないの?」。「誰も。私は君の友達になりたいんだ、ホアン・カルロス。君が私の友情を拒否したとしても、提案は生きている」。「ジーンと来るけど、なんかゲイみたいだね。愛してなくても、愛してるなんて、甘っちょろいな」。「私に興味があるのは友情だけだ。他のことは考えもしない」。「なら いいや」。

ここで、アルベルトの態度が一変する。「知ってるか? もううんざり、逃げるのは私だ。この町から出て行く」。そして、そのまま外へ出て行くが、すぐに戻って来て、「君も逃げたいか? 私は車で行く。連れて行ってくれるか?」と訊く(1枚目の写真)。ホアンにとって、こういう変わった人は初めてなので、一瞬迷うが、ペーパーナイフを回収して一緒に付いて行く。アルベルトが運転席に乗ったのは、ポルシェ924。CEMUの敷地から出ると、アルベルトは車を停める。ホアンは、さっそく、ペーパーナイフを向ける。アルベルトは 「君が運転しろ」と言って車から降りる。ホアンは、「運転するけど、僕に触ったら、これを肝臓に突き刺すから」と言うが、アルベルトはホアンの肩を叩いて「あっち〔運転席〕へ」と指示。そして、「スタートだ。彼らが言うほど巧いか、見せてみろ」。ホアンは、時速140キロで一般道を走り、アルベルトは、「君は、逃げるプランを用意してるのか、それとも即興か? 私は、どこに逃げたらいいか、思いつかん。近くがいいな、すぐ着く。フロリダ・パークだ。長いこと行ってないからな」と言う。車がフロリダ・パークに着くと、アルベルトは、「じゃあ、ここで別れよう。楽しかった」と言って手を差し出す(2枚目の写真、矢印)。ホアンは握手せず、「この車、僕どうするの?」と訊く。「さあ。盗んだ車は、これまでどうしてた?」。「それを使ってどこかに行ったり、何かを盗んだり」(3枚目の写真)。「じゃあ、これも同じようにしたら?」。「バカじゃないの? こんなど派手〔cantado〕な車」〔太字はスラング〕。「じゃあ、ここに駐車して、歩いて逃げ出すか?」。「かっぱらい〔chorizos〕がいるのに、ここに置いておくの?」。「思いついたんだが、君の好意に甘えていいものか。CEMUまで持って行って、駐車してもらえないかな? 君は歩いて逃げるつもりだったろ? だから、そこからやり直せばいい」。「軽いボケ〔colgao〕じゃなくて、大ボケじゃないの? まあ、どこに置いても構わないけどね」。「ホアン・カルロス、どうもありがとう。感謝の気持ちでいっぱいだ」。

アルベルトは、助手席から出ると、さらに変わったことを言い出す。「私のペーパーナイフで誰かを襲うつもりはないよな? 君に武器を渡したまま行かせたと、非難されたくない。だが、もちろん、逃げるにはお金が要る。だから、私のお金をあげるから、武器は返してくれないか」。「何のつもり?」。「君が誰かを襲わないよう、私のお金をあげたいんだ。いつもは、何て言うんだ? 『金を寄こさんと、ぶっ刺す〔rajo〕ぞ』とか?」。「そんな、緊張しちゃうじゃない」。「いつものように、盗むだけだろ?」。「じゃあやるよ。『持ってる物、全部寄こせ!』」。アルベルトは、ポケットからお札を全部取り出し、「飲み物代、残していいか?」と訊く。「ダメダメ。全部だよ。これがホントの強盗なら、そうする」(1枚目の写真)「さっさと、渡して」。アルベルトは全額座席に置くと、ペーパーナイフを指差して、「それ、返せよ」と言う。アルベルトは、ナイフを助手席側から外に放り出し、車を急発進させる。アルベルトは、ナイフを拾うとポケットに入れ、CEMUに向かって歩き始める。一方、ホアンは、約束通り、車をCEMUまで持って来て、構内の道端に停めると、そのまま歩いて逃げようと、ドアをロックしようとするが、何度やってもノブが上がってしまいロックできない(2枚目の写真、矢印)。そこで、良心的なホアンは、車が盗まれないよう、運転席に座っているうちに眠ってしまう。アルベルトが、朝、歩いて到着すると、ホンアがそのまま眠っていた(3枚目の写真)〔直線距離で12キロ以上ある〕

ここで、「2年前」と表示される。運転席の下に潜ったホアンが、電気配線を直結してエンジンをかけようとするが、失敗をくり返す(1枚目の写真、矢印)。それを見たペリキート〔赤茶色はニックネーム〕は、「そうじゃない、壊れちまうぞ。俺にやらせろ」と口を出すが、ホアンは、「僕がやる。でないと 覚えられない」と譲らない。「感電して死んじまうぞ」。「黙ってて。運転、めちゃ下手なくせに」。結局、何とか盗むことができ、その小型車で田舎の空き地まで行き、9歳にして運転の腕を磨く。場面は変わり、貧しい家族が住むアパートの窓を 真冬に全開してホアンが外を見ていると、赤ちゃんを抱いた母が、「窓を閉めなさい。みんなが肺炎になっちゃうわよ」と命じる〔1979年12月末の夕方の気温は4-7℃〕。「母さん、ここすごく暑いよ」言いながら、ホアンは仕方なく窓を閉める(2枚目の写真)〔みんな厚着をしているが、後で、貧しいので暖房がないことが分かる〕。「あんたに風邪を引いて欲しくないの。1人が引くと4人になる。座薬を入れるのもうんざり。今年最初に病気になった子は、治るまで家には入れないから」。そして、父が帰宅して一家揃っての夕食(3枚目の写真)。

父は、「ホアン・カルロス、今年は、東方の三博士〔スペインのクリスマス〕に何を頼む?」と訊く。「知ってるくせに。去年と同じ。自転車だよ」(2枚目の写真)。「幾らするのか知ってるのか? 自転車を買ったら、1ヶ月分の給料の半分以上が飛ぶんだぞ。この家には、プレゼントを待ってる4人の女の子もいる。ウチには、ほとんどお金がないんだ」。「なぜ、もっと稼げる仕事しないの?」。「俺が何をする? 言えよ。お前の友だちの両親みたいに盗むのか? ガビオットみたいに、近所の婆さん連中からバッグを奪うのか? 俺にそうして欲しいか? 俺にはそんなことできん。俺は一生働いてきた。学ぶ時間などなかった」。「向かいの人は盗まないし、子供たちはみんな自転車を持ってる。そして、自分の家に住んでる」。「その人は建設業者で、俺は只の労働者だ。運がよければ左官をしてる。こんなこと、こいつに説明しなきゃならんのか」。これだけ、文句を並べた上で、父は、ホアンに「部屋に行け」と言う。食事中なので 「どうして?」と訊く。父は、首で行くよう指示。ホアンは仕方なく席を立って部屋のドアを開ける。そして、照明を点けると、ベッドの前に新品の自転車が置いてあった。それを見たホアンは、「父さん、ありがとう!」と父に抱き着く(2枚目の写真、矢印は自転車)。父は、「母さんにもキスだ。もし、母さんがいなかったら…」と言い、ホアンは 母に何度もキスする。父は 「俺は お前に自転車を買った。だから、お前は約束しろ。良い子になって、犯罪者どもと付き合わないと」。「誓うよ、父さん、ホントに!」。翌日、ホアンはさっそく自転車に乗って丘の方に出かけるが、とても初心者とは思えないので(3枚目の写真)、盗んだ自転車を乗り回してしたのかも。

そのあと、ホアンは町に行き、高級車が並んでいる通りで、欲しいなと思ってジャガーをじっと見たり(1枚目の写真)、夕方になってセーターだけで寒くなると、バスを待っていた少年の前まで自転車で行き、「バスで家に帰るの?」と訊く。「うん」(2枚目の写真)。「なら、そのコートくれる? 僕、寒くて、遠くに住んでるんだ」。「何言ってるの?」。「コートをくれなかったら、君が着てるまま、それを穴だらけにしてやる」と言いながら、飛び出しナイフを少年に向けて脅す(3枚目の写真)〔このコートは、解説の “ローデン・コート”〕。次のシーンでは、暗くなった田舎の舗装道路を、コートをはおったホアンが自転車を漕いでいる。父との約束は1日も守られなかった。そして、雷の音が響き、急に激しい雨が降り出す。ホアンは、自動車修理工場の前に停めてあった車を盗み、向かった先は、泥棒仲間が集まっているバー。父との約束は計3つも破られた。何度も書くが、これは9歳の子で、小学3-4年生。しかもホアン自身は実在する人物で、脚色はされているが実話なのだ。驚きを禁じ得ない。バーの前で、ホアンは盗難車のトランクから自転車を取り出すが、映画で自転車の姿を見るのはこれが最後〔あんなに欲しがっていたのは、嘘? それとも、車以外は興味ない?〕。バーに入って行った “ローデン・コートを来たホアン” を見た顔見知りの1人が、「わお、ペラじゃないか」と言う。これが、生涯、ホアンが、「Juan Carlos Delgado, ‘El Pera’」と呼ばれるきっかけ。“pera” は “梨” ではなく “金持ちのガキ” というようなニュアンスのスラング。

次は、学校のシーン。ホアンともう1人が、教師のテーブルの両脇に机を置いて座らされている。教師が、「ノートを配ってくれる子」と生徒に訊くと、全員が手を上げる。教師は、ホアンに 「他の子に任せた方がいいんじゃないの?」と注意する。「まず、読めるようになりなさい。でないと、何も配れないでしょ」。「読めなくても、配れるよ」。そう言うと、もう1人の “2年生を3回” やった子と一緒に配り始める。その子が、「ミゲル・アン…」とアルファベットを1つ1つ読んで行くと、該当する子が、「ミゲル・アンヘル・ロペス」と手を上げる。それを “出しゃばり” だと受け取ったホアンは、「勝手にしゃべるな!」と その子の頭を叩き、教師に叱られる。ホアンは、「こんなことされちゃ、僕たち何も学べません」と反論するが、教室のドアが開き、校長と、生徒の母親が顔を覗かせる。校長は 「ホアン・カルロス! ピラールさんの車をどうしたの?」と、強い調子で訊く(2枚目の写真)。「上手に停めました」。「で、中にあったすべての物は?」。「外から見えたので、僕が保管しておきました。ガラスを割って 盗まれるかもしれないから」。「次は、車を動かして空にするのではなく、彼女にそう話しなさい」。父の仕事がない日、校長は、ホアンの両親を呼び、ホアンを同席させる。校長は、開口一番、「息子さんの行動を改善するために何かをしないといけません。さもないと、放校せざるをえません」と両親に告げる。父は 「私たちが何もしていないとでも? 私は一日おきに彼を罰してます」と弁解する。そして、ホアンが紙に落書きをしているのを見て、「鉛筆は右手で持たんか!」と叱る。校長:「書く手は好きに選ばせましょう。彼が左利きなら」。父:「左利きじゃなく、母親のように頑固なんです」。校長:「あなたは左利きですか?」。父:「私の妻? そうは思いません。彼女は学校に行ったことありません」〔信じられない。1979年なのに、スペインってそんな国?〕。ここで、父はホアンに 「お前の母さんを怒らせた時、どっちの手で叩かれる?」と訊く〔ひどい家庭〕。ホアン:「どっちか分からないよ。僕 すぐ逃げるから、じっくり手なんか見てない」(3枚目の写真)。話が変な方向に言ったので、校長は改めて、「息子さんは甘やかされた悪童です。ヘタフェやその周辺では、誰でも知っています」と言う。父は、自分について話し始める。「私は朝6時に起きて労務〔tajo〕に行き、囚人のように夜まで働き、何もせず家に帰ります」。すると、ホアンが口を出す。「ワインを飲みにバーに行くじゃない」。それを聞いた父は 「何だと!」とホアンを叩き、母と校長から同時に注意されるが、父はホアンに向かって、「どうやったら、バーに行かずに済む? お前をボコボコに殴らないのは、そのお陰だぞ!」と怒鳴り、ホアンは勝手に部屋から出て行く。

別の日、放課で生徒達が狭い校庭で遊んでいると、ホアンは、鍵のかかった柵を乗り越えて、先日盗んだ車でバーに行った時にいた3人の仲間と合流する(1枚目の写真)。4人はスーパーマーケットに行く。要注意人物が入って来たので、店長が監視していると、ホアンは、化粧品のようなプラスチックのボトルが並んでいる棚から何かを盗って、上着の中に入れる。そのあと、仲間の1人が棚から抜き出したAnís del mono(アルコール度数36%のスイートアニスのお酒)のペットボトル(700cc)をみんなで回し飲みする(2枚目の写真)〔9歳で、度数36%が平気〕。そして、4人は、通路を走って逃げ出すが、最後のホアンだけが、隣の通路に逃げ、待っていた店長に捉まる(3枚目の写真)。そして、警察が呼ばれ、ホアンはパトカーで署まで連れて行かれる。

署の警官は、ホアンの家に電話をかけ、「今晩は奥さん。こちら警察です。あなたは ホアン・カルロス・デルガド・カバレロの母親ですか?」と訊く。そして、「ちょっとした問題を起こしたので、連れに来て下さい」と依頼する(1枚目の写真)。ホアンは、署の駐車場に、キーを付けたままの車が何台も停まっているのを見たので、電話を終えた警官に、「かっぱらい〔chorizos〕がいるのに、車にキー挿してあるけど 怖くないの?」と訊く(2枚目の写真)。警官は、「それは、犯罪者のため? 署長のため?」と、笑顔で応え、ホアンも笑顔になる。しばらくして、母が赤ちゃんを抱いて迎えに来る。出て来た署長は、「心配しないで。彼は、シマゴ〔スーパーマーケットの名前〕で盗んだところを捕まりました」と説明する。母:「そんなことしたの?」。ホアン:「盗んでない、遊んでただけ」。署長:「どちらかかは、明白でしょう。彼がギャング〔panda〕と一緒にいれば、いろんなことが起きるが、良いことは一つもありません」(3枚目の写真)「彼らはマドリード南部で有名です。彼はまだ小さいので、今すぐ矯正すべきでしょう。他の連中は絶望的です。法定年齢に達し次第 刑務所にぶち込みます。だが、あなたの息子はまだ子供です。今のところは、記録に留めておきます」。

家に戻ると、母は、脱いだハイヒールでホアンのお尻を何度も叩き、ホアンは悲鳴を上げる。母は、ホアンの両腕をつかむと、「動物みたいにわめくのは、お止め! 今夜、父さんに罰せられないよう、今叩いてるのが分からないの?」と言う(1枚目の写真)。しかし、この体罰は全く効果がなかった。翌日、念のために、母が学校の終了時間にホアンを “確保” しようと迎えに行くと、どれだけ待っても出て来ない。実は、ホアンは、校門のすぐ脇にある建物の中にいて、そこにはギャング団の連中が全員揃い、ホアンは正式な仲間になるため、腕にタトゥーを入れてもらっていた。タトゥーの文字は、全員が “ニックネーム” だが、ホアンの場合は、「ペラ」だった(2枚目の写真)。そして、ギャング団は、ある日、トレドに行き、宝石店を襲う。店を閉めようとする店長の前で車を停め、「手を上げて、動くな!」という短いシーンだが、ショーウィンドウには宝飾品が並んでいる(3枚目の写真)。

トレドは、スペインの有名な観光地だが、旧市街の道路は極端に狭い〔右の写真は、私が撮影した狭い街路〕。こんな狭い道を、夜中に、ホアンが運転するルノー12が高速で突っ走る。後部座席の左に座っているガビオットが、「トレドに来るなら “600” にすりゃよかった」と言い出す〔ホンダのミニ600?〕。ホアンは 「警察に追われたら、“600” で奴らの前を走るの?」と正論を言い、右に座っているチャーリーから、「ガビオット、完敗だな」と言われる。ホアンが走っていると、路地の壁に張り付くように車が停めてあるが、横の空間は狭すぎて車など通れない。助手席のインディオは、「こんなトコに停めやがって!」とブツブツ。ホアンは仕方なく、後ろを見ながら高速でバックする。右に曲がれるT字路まで来ると、後ろから パトカーがやって来るのが見える。そこで、ホアンはパトカーの方までバックしてT字路を通り越すと、前進に切り替えてT字路を左折。宝飾店からの通報があったからなのか、パトカーはサイレンを鳴らして追跡を始める。その先の道が狭いので、ガビオットが思わず 「狭すぎる!」と叫ぶ。インディオ:「ペラに任せろ。黙ってろ」。車は助手席側を壁に接触させながら狭い箇所を通過、小型のパトカーはすぐ後ろに迫る。通りに住む女性が、パトカーの音を聞き、何だろうとドアを開けると、それにホアンの車がぶつかって、ドアをバラバラにし、びっくりして路地に飛び出した女性を見て、パトカーは壁にぶつけて急停止する。他のパトカーが2台加わり、カーレースは厳しさを増す(1枚目の写真)。次の十字路でホアンは急に右折し、曲がり切れずに先頭のパトカーは建物の角にぶつかって大破。しかし、車から降りた複数の警官が発砲、リア・ウィンドウが粉々に吹き飛び、ガビオットが銃で応戦する(2枚目の写真、矢印は発砲光)。途中の路地でパトカーが割り込んで来て、チャーリーが撃たれる。ホアンは、ブランコの中をくぐり抜け、すぐ後から追ってきたパトカーのフロント・ウィンドウを粉々にする。そして、ホアンの行く先の道がなくなり、急に階段に変わる。長い階段の下では、別のパトカーが待ち受け、2人の警官が銃を構えている。ブランコのパトカーからも警官が銃を持って出て来る。前と後ろを挟まれたので、ホアンは前進を選び、階段を下りて行く(3枚目の写真)。当然、警官は銃を撃つが、車が思ったより早く階段を下りて来て パトカーにぶつかりそうになったので(4枚目の写真)、慌てて車を出し、ホアンはその後ろをすり抜けて左折し、トレドから逃げ去る。撮影の舞台となった階段道は、Cuesta de Calandrajas というトレドでもNo.1の大規模な階段道だが、今は真ん中に鉄の手すりがあり、通ろうと思っても車は走れない。

夜遅く、アパートのベルが鳴り、妹がドアを開けると、ホアンが入って来る(1枚目の写真)。母は、すぐに 「父さん見た?」と訊く。「バーにいたけど、僕には気付かなかった」。それを聞いた母は、ホアンの頬を強く叩きながら(2枚目の写真)、「あんた、変わる気はないの?」と叱りつける。すると、叩いた時の力が強かったので、預かった宝飾品の一部が床に落ちる(3枚目の写真)。

ホアンは、「盗んだんじゃない。友だちのために預かったんだ」と、正直に話す(1枚目の写真)。「今日の午後、どこにいたの?」。「訊かれたら、僕と一緒だったと言ってよ」。「どこにいたのか言いなさい。でないと、父さんを探しに行くわよ」。「訊かれたら、僕と一緒だったと言ってよ」。その不誠実な返事に、母はホアンをめちゃくちゃに叩き始める(2枚目の写真)。ホアンは、「僕、何もしてない。何も盗んでなんかない! 友だちのために保管してるだけだってば!」と叩かれながら言い訳するが、母は叩くのをやめない。「盗んだ人から預かることと、盗むことは同じだって、分らないの?!」。ホアンから宝飾品を奪った母は、あまりにきれいなので、真珠のイヤリングと、金のネックレスを付けて鏡の前に立ってみる(3枚目の写真、矢印)〔母は、これらの宝石を自分の物にしてしまう〕

ホアンがベッドで眠っていると、ドアのベルが何度も馴らされ、ノックも繰り返される。そして、母は、「一週間 病気で寝てました」と嘘をつくが、警官はトレドでのパトカーとの激しいレースを指摘し、警察署に連れて行く。ホアンが署内のベンチに座っていると(1枚目の写真)、そこにパトカーの音がして、一緒にトレドに入った3人が手荒く連行されてくる。最後に助手席に座っていたインディオがホアンにニヤッとした顔を見せると、ホアンも笑顔で見送る。そこに署長がやって来ると、ホアンの頬を思い切り引っ叩き(2枚目の写真)、「ニヤニヤするんじゃない!」と叱る。ホアンは、叩かれた頬が痛いので、両手で覆っている(3枚目の写真)〔警官による理由なき児童虐待〕。そこに、ホアンの父が入って来て、息子が殴られたらしいのを見る。署長は 「事件で 私はひどく傷付いた」と、暴力を弁解する。

何日後かは分からないが、ホアンは、アパートに帰される。父は、ホアンの部屋のドアに二重の鍵を取り付ける(1枚目の写真、矢印)。しかし、ホアンは3階の窓から、樋を伝って脱出する(2枚目の写真、矢印)。そして、向かった先は、強盗団のアジト。そこには、釈放された3人だけでなく、他の仲間、アジトに住んでいる母親と子供2人、そして、今回の強盗に絡む故買人がいた。怖そうな男が、「欠けてるブツを持ってるのは、奴か?」と訊く。ホアンは、さっそく預かっていた物を渡す。仲間から、「これだけ? イヤリングとブレスレットは?」と指摘される。ホアンは、「隠す前に 母さんに殴られ、その時何かが階段から落ちた」と言って、母を庇う(3枚目の写真)。

その晩、ホアンは、その家のソファで寝る。朝になり(1枚目の写真)、ドアがノックされる。ホアンが誰だろう見に行くと、そこでは、インディオが、故買人から受け取った盗品の売却金の3分の1を、何と警察署長に渡していた(2枚目の写真、矢印)〔最低・最悪の汚職警官〕インディオ:「驚いた、ペラじゃないか! 怖いか? 心配するな。俺たち みんな友だち〔グル〕だ」。署長:「彼はニキ・ラウダのように運転するか?」〔ニキ・ラウダ(1949-2019)は実在のレーシングドライバー〕。「もっと巧い。彼は走らない。飛ぶ」。そう言うと、ホアンに、「セニョリートを そんな顔で見るな。仲間なんだぞ」と注意する(3枚目の写真)。「こいつ、面倒を起こさないかな? ほんのガキだぞ」。「彼は、小さいけど、虎のような度胸を持ってる」。「こいつの家族は?」。「何も気づいてないし、彼はほとんどいつもここにいる」。

いつものバーで、ギャング団がわいわいやっている。ゲーム機が1台置いてあり、そこで遊んでいる30歳のベゴが何となく好きなホアンは、すぐそばに寄って行くと、「一緒にやろうか?」と声をかける。「いいけど、下手よ」。「誰も 教えないからだよ」(2枚目の写真)。そして、「車、持ってる?」と訊く。「あたしが車に乗ってるの見た?」。「僕、車が何より好きなんだ」。「運転の仕方、知ってるの?」。「メチャ巧いよ。仲間が教えてくれた」。ここで、ベゴはミスをするが、運よく別のボールが手に入る。「ラッキーだね。頬にキスする?」。「いいわよ」。そう言うと、ベゴは、相手が 自分の年の1/3の子供なので、気楽にキスする(3枚目の写真)。

ここで、場面は、アパートのホアンの部屋に。彼が眠っていると、母が、カラフルな布を被せた大きな物を部屋に運び入れ、「ホアン・カルロス、起きて、東方の三博士からよ」と体をつつく。ようやく目が覚めたホアンが、布が取られた “大きな鳥籠に入ったオウム” にびっくりして、「それ、何なの?」と訊くと、母は 「“lolo”(オウム)が欲しいって言わなかった?」と答える。「“lolo” は、ラジカセのことだよ!」。母は、夫がオウム嫌いなので困ってしまう。「この厄介者どうするの?」。「母さんが世話するから、心配しないで。自転車でやったみたいに、最初だけでも好きなフリを…」〔これは、すぐに自転車に飽きたホアンへの嫌味〕。次の場面では、父が帰宅し、食事の前の前菜とともに、リンゴ酒が出されていて、父が、ホアンの前に置かれたグラスにもリンゴ酒をたっぷり注ぐ。それを見たホアンは、「これ僕の?」と訊く。「そうだ。来年には、もう10歳だ」。「11だよ」(1枚目の写真)〔いい加減な父/これで、「2年前」から1年以上が経ったことが分かる〕。「そうだった。友だちと ワインやキュバタ〔ラム酒入りコーラ〕を飲んでるなら、両親とリンゴ酒を一杯飲んで何が悪い?」。ここで母が、「ホアン、大晦日よ」と言うので、父が言った「来年」は、すぐそこまで来ている。父は、母に対し、「彼がいつも夕食に来れば いつでも話せるのに、そうじゃないから、今しかないんだ」と言うので、最近のホアンは、強盗連中と一緒に過ごす時間の方が多いことも分かる。そして、この発言を受けて、今度はホアンに、「今年、学校はどうだった?」と訊く。「いいよ」。「嘘だ! 3回しか、学校に行っとらん。それも、いつも、どっかで強盗をやらかした翌日だ」。ホアンは、「警官は何も分からないから、何でも彼らのせいにする」と、仲間を庇い、その言葉に、父は 「何だと、潔白なフリして」と手を振り上げるが、叩くのは 大晦日なので止める(2枚目の写真)。そして、代わりに、「お前は犯罪者だから、そう言うんだ。リンゴ酒を飲め。いつか、お前は我が家をかき乱す。あいつらとつるんでると、ロクなことは起きん。知ってるハズだ。いつか、お前は撃たれるか、誰かを撃つだろう」とまで言う。「僕は誰も撃たないよ!」。「今はまだ、そうだろう。だが、店に押し入り車を盗んでりゃ、そのうち銃だって手にするだろ?」。そして、「リンゴ酒を飲め」。ホアンはあきらめて、リンゴ酒を飲む。母:「子供を、酔わせてるわよ」。「なら、酔っ払わせろ! まともな人を襲うよりは、酔っ払い〔castaña〕で家にいた方がいい」。そう言いながら、父は、さらにリンゴ酒を並々と注ぎ(3枚目の写真)、「酔っ払わせれば、一晩家に居させられる」と言う。

新年になってから、ホアンがいつものバーで、ベゴと一緒に踊っている(1枚目の写真)。次の場面は、ベゴのマンションのドアの外で、ホアンとベゴの声が聞こえる。「僕に任せて、ベゴ。あなたはフラフラだ」。「あんただって」。「僕は、マリファナやってない」。そして、ドアがゆっくりと開き、フラフラになったベゴが、「もうダメ…」と体を屈める(2枚目の写真)。そして、大急ぎでコートを脱ぎ捨てると、バスルーム兼トイレに急いで入って行き、便器に屈んで山ほど吐き、心配したホアンが それを見ている(3枚目の写真、矢印)。

何とか立ち上がったベゴは、アルコールとマリファナのダブルで意識が朦朧としているので、薄着を着たままシャワーを浴び始める。ホアンは、「ねえ、濡れちゃうよ」と言うが、ベゴは、靴を脱ぐと、シャワーの真下に入り、頭からシャワーを浴びる。「マリファナでハイ〔colgá〕だね、それも、すっごく」。「そうよ」(1枚目の写真)。ベゴはシャワーを浴びながら服を脱ぎ始め、それを見たホアンは、「すごくイカすね、ボゴ」と言うが、全裸になってしまうと(2枚目の写真)、恥ずかしそうな顔になって見ている(3枚目の写真)。

ベゴは バスローブを着て出て来ると、寝室に直行し、ベッドに入って毛布にくるまってしまう。1人残されたホアンは、「ベゴ、一緒に寝てもいい? 父さんに会いたくないんだ」と頼む。すると、バゴが毛布を半分剥がし、自分の横に入るよう腕で指示する(1枚目の写真)。ベゴが上着と靴だけ脱いでベッドに横になると(2枚目の写真)、ベゴは 「服を着たまま、ベッドに?」と笑顔で訊き、ホアンが肩をすくめると、「ほら、渡して」「私がやる」と言い、パブで踊っていた時の格子模様のシャツを取り去って投げ捨てる。そして毛布に潜ると、長ズボンも外して捨てる。そして、「寒い?」と訊く。「ううん、暑いよ」(3枚目の写真)「僕の家、暖房がないから」。

それを聞いたベゴは、「ジャージーも脱いで」と言い、ホアンが脱ぐのを手伝う(1枚目の写真)。そして、もう一度 毛布に潜ると、パンツを脱がせて手に持ち(2枚目の写真、矢印)、投げ捨てる。そして、自分もバスローブを脱ぎ捨てると、全裸同士で抱き合って寝るが、2人ともすぐに眠ってしまう(3枚目の写真)。

翌朝、ホアンが目を覚ますと(1枚目の写真)、隣に寝ていたベゴはどこにもいない。そこで、ベッドの端に載っていたパンツを拾うと、何とかパンツだけは履き(2枚目の写真)、そのまま鏡の前に行くと、乱雑に放り出してある ストッキングを取り上げ、頭から被ると、覆面強盗になったつもりで、手を拳銃の形にして突き出して見せる(3枚目の写真、矢印はストッキング) 。

次の場面は、いきなり強盗シーン。ストッキングを被ったホアンが、濃い色のスプレーを監視カメラにかけて、他の仲間の顔が写らないようにする。そして、全員がストッキングを外すと、ホアンが 「ビデオをかっぱらおう」と言う。インディオが、「彼らが作るものはすべて厄介だ」と言い、ペドリーサが 「カメラはこれだけ?」とがっかりする。「無駄話はやめて、仕事だ」。そして、盗んできたトラックの箱型荷台に電気製品を積み込む(1枚目の写真)。次のホアンのシーンで、そこが大きなスーパーマーケットだと分かる。ホアンは棚の1つに女の子用のナンシー人形を見つける。スーパーの場面はそこで終わり、次のシーンは、強盗団のアジト。全員でTVを見ている。そこでは、「今年は、エル・ルートの年となりました。彼が300万ペセタを稼いだ歌『ボニーM』に、ベニドルム国際音楽祭の一等賞が与えられました」と、アナウンサーが話している。それを聞いたチャーリーが、「わぁ、あんな大悪党が!」と驚く〔ニックネームエル・ルート、本名エレウテリオ・サンチェス・ロドリゲス。「Microsoft Word - S327Lute.docx」によれば、彼は、1942年生まれ。1965年に殺人罪で起訴され、死刑を宣告されたが30年に減刑。刑務所に向かう電車から飛び降りで逃げたが、すぐ捕まる。刑務所で絨毯を織りながら5年かけて糸を数本ずつ持ち出し、それでロープを作って脱走。逃走中 111件の強盗と16件の車泥棒を行い 「最重要指名手配犯」となった。1973年に再逮捕された後は、法律の学位を取得、5冊の本を書き、フランコ政権が終わると1981年に赦免され、弁護士に。彼が作った歌 『ボニーM』(1979)は今でも人気がある。当然、彼を描いた映画も作られている〕。そして、それを話題に話し合っていると、ドアが苛立たしげに何度もノックされる。インディオが見に行くと、そこにいたのは、悪の権化の署長のセニョリート。2人は、言い争う形で、みんなのいる部屋にやって来る。「俺たち、行ってない」。セニョリートは、「監視カメラがあるのは知ってたろ! シマゴ〔最初に入ったスーパーマーケット〕は やるなって言ったハズだ!」と怒鳴りながら、床にあったものを蹴飛ばす。「ここには “シマゴ” なんかないよ。誰がやったのかな?」。セニョリート:「貴様ら、火遊びなんかしおって、何も分かっとらん」。ここで、口の軽いガビオットが、「仮釈放中のエル・ルートかも」と、いらぬことを言い、セニョリートは 「エル・ルート? エル・ルートだと!」と怒りを爆発させ、ガビオットに殴りかかろうとして、みんなに 「やめてよ、セニョリート。俺たち同じ船に乗ってるんだ」と、止められる。セニョリートは 「放せ、このクソが!」と怒鳴って暴行をやめると(2枚目の写真)、「同じ船だと? 船に乗ってるのは俺一人だ、クソガキども」と言って出て行くセニョリートは、“クソガキ” どもは仲間ではなく、単なる使い捨てのゴミだと言いたい〕〔この強盗団が、なぜセニョリートに内緒でシマゴに盗みに入ったのかは分からない〕〔“署長” が強盗団のボスだとマスコミにバラすと脅せば、立場が対等になるかもしれないのに、頭が悪いせいか誰も言い出さない〕 セニョリートがいなくなると、ガビオットが失言の責任を問われて、みんなに冗談半分に殴られる。インディオが、ホアンに、「ところで、盗んだ物 どこに隠したんだ?」と訊くと、「知らない方がいいよ」と答える(2枚目の写真)〔青年たちが2人がかりで積み込んだ物を、ホアンが1人で隠せるものだろうか?〕

盗みを働いた後なので、ホアンはしばらくベゴの部屋に泊まり続ける。彼がお風呂に入っていると、ベゴが洗濯物を持って入って来て、「ホアン・カルロス、何も持ってこないでと言ったのに」と不満を洩らす。「ただのヘアドライヤーだよ」。「4つ目のね」。「毎日 新製品が出るから。ベゴ、あなたの髪ってきれいだね。だから、最高。一緒に入らない?」(1枚目の写真)。ベゴにそんな気はさらさらないので、「生理だから」と嘘を付いて断り、「お母さんは、こんな服で外出させるの?」と訊く。「母さんは僕を無視。僕は母さんを無視」。「そんなの、すぐ終わるわ。今夜は帰ると約束して」。「ウチは最悪だもん。両親は5人の妹しか見てない」。「甘えん坊が話してるみたい」。「僕は、甘えん坊じゃない」。「違うの?」。そう言うと、ベゴはバスタブまで行き、シャワーヘッドを取ると、わざとホアンの顔にシャワーを向ける(3枚目の写真)。

そして、5人の強盗仲間が1台の盗難車に乗っている。一番幼いのに、一番冴えてるホアンが、「僕たちにイラついてるのに、セニョリートが こんなウマいタタキ〔palo〕 をくれるなんて変だね」と “的確” に疑問を言う(1枚目の写真)。助手席のインディオには脳ミソがないらしく、「セニョリートは怒ってるが、仕事は仕事だ」としか言わない。後部座席中央のペドリーサが 「俺たちだって イヤとは言えない」と言い、右のガビオットが 「そうだよな」と相槌。インディオ:「金さえ手に入るなら、それで満足さ」。後部座席の左でチャーリーが麻薬を鼻で吸っているのを目ざとく見つけたホアンが、「ねえ、チャーリー、帰りまで待てないの?」と注意する。「うるさいな、ペラ、ここでゲロ〔poto〕するわけじゃなし」。「いつだって、そう言う」。「丸一日ヤッてないんだ」。「あんたがやる気〔pa ná〕をなくすと、僕らが代わりをしないといけなくなる」。インディオは、「その通りだぞ、チャーリー」と同意し、チャーリーは、「くそ、俺はみんなの嫌われ者か」とブツブツ。一行は、セニョリートが指定した町の、特定の家まで行き、ホアンが窓から忍び込む(2枚目の写真、矢印)。そして、ドアを開けて仲間を部屋に入れる(3枚目の写真)。

すると、すぐに外から、警察の 「動くな! 包囲されているぞ! 両手を上げて出て来い!」と命じる声が響き渡る〔シマゴからの盗難に対する署長(セニョリート)の仕返し〕。4人がどうなったのは分からないが、ホアンは真冬だというのに、パンツ1枚の裸にされ、署の中庭にポツンと置かれたイスに座らされる(1枚目の写真)。そして、長いホースを持った警官が、「仲間の連中は、お前ほど幸運じゃないぞ。年下だから、甘やかされるんだ」と言いながら、寄ってくる(2枚目の写真、矢印はホース)。「だが、そんなに簡単に帰れるとは思うなよ。マドリードから来たクソチビ〔choricillos〕め。この町は、お前らにやられるためにあるんじゃないと 分からせてやる。お前は重い肺炎にかかり、数週間高熱で寝込むだろうから、こんなお前を育てた両親にも、いい教訓になるだろう」〔完全な児童虐待〕。ホアンが警官に向かって唾を吐きかけると、警官は冷たいシャワーをホアンの頭からたっぷり掛ける(3枚目の写真)。

翌朝か、数日後、ホアンはヘタフェの警察署まで帰され、いつもの長椅子に毛布をかけて寝ていると、そこに呼ばれた父が入ってくる(1枚目の写真、矢印はホアン)。次のシーンでは、寒さで体を震わせながら、ホアンがバスを待っている(2枚目の写真)。父は口もきかない。バスがやって来ると、父が先に乗って運転手に料金を払い、そのまま、最前列の窓側に座る。ホアンが隣に座ろうとすると、「目障りだから、後ろにでも行って座ってろ。でないと、イライラする」と言われ、最後尾の席の真ん中に座る(3枚目の写真、矢印)。

アパートにいられないホアンは、すぐにベゴのマンションに行く。そして、ベッドに横になってTVを見ていると(1枚目の写真)、ベゴがリモコンを奪ってTVを消す。「テレビ 見たくないの?」。「ホアン・カルロス、こんなこと間違ってる。あんたとあたしが やってることよ。あたしは、あんたを助けてると 自分に言い聞かせて来た。あんたに愛を与え、あたしが嫌いな危険な人生から遠ざけているんだと。家に帰したら、誰もあんたを世話しないから」。「その通りだよ」(2枚目の写真)。「いいえ、あたしは 世話してないし、助けてもない。一緒に遊んでるだけ。分からない? 話すことさえできないのよ」。「話してるじゃないか」。「話すってのは、理解し合うってことなの。ホアン・カルロス、あんたは11歳未満なのに、あたしはもう30。これは、あたしが これまでやった中で最もばかげたことで、もう何とかしないといけない。あたしは、あんたの何者でもない」。「あなたは、僕の相棒〔compañera、「彼女」という意味もあるが、ここではそこまで強い意味はないであろう〕でしょ?」(3枚目の写真)。「あんた、あたしがここヘタフェで 一人で何してるか考えたことある? 友だちもなく、家族とほとんど連絡せず、仕事もせず…」。「そんなの僕に関係ない。でも、そうして欲しいなら、尋ねようか?」。「あたしには、答えられない。自分でも、分らないから」〔2人の奇妙な共生生活は破綻に瀕している〕

ホアンの妹の聖体拝領の日。ホアンは久し振りにアパートに戻る。そして、盗んだ金のネックレスを妹の首にかけ、「隠しておけよ、マリ・ホセ。父さんに見つかったら、終わりだ」と言う。妹は 「ありがとう、ホアン・カルロス。来てくれて。一週間 神様にお願いしたから、聞いて下さったんだわ」と言うので(1枚目の写真、矢印はネックレス)、ホアンはずっとベゴに迷惑を掛けていたことになる。そこに、もっと小さな2人の妹が入って来て、「兄さんは 何をくれたの?」とマリ・ホセに訊く。ホアンは、ネックレスを見た2人に、「口外すると どうなるか知ってるか? 舌をちょんぎってやる」と脅す。しかし、マリ・ホセと違ってずうずうしい次女のマリベルは、「わたしたちには、何もなし?」と言い出す。「ない。聖体拝領はマリ・ホセだけだろ」。「シマゴのナンシー人形でもいいわ」(2枚目の写真)。そんな極秘事項を平然と口にされたので、ホアンは、「そんなこと、誰から聞いた?」と問い質す。「学校で、インディオの妹からよ。兄さんが全部持ってるから、何ももらえなかったって」。「バカな娘だ。インディオに2回ぶたせよう」。その言葉にもかかわらず、三女は 「ナンシーのスケーターが欲しいわ」と言い、マリベルは 「わたしはパーティー・ナンシー」と要求。ホアンが「ナンシーなんか ない」と拒否すると、「角にある古い家よね」〔ホアンは、隠し場所は仲間にも黙っていたので、ナンシー人形欲しさにマリベルが探し回った?〕。そこに、突然母が入って来る。母は、以前、ホアンが預かってきたイヤリングとネックレスを自分の物にしたくらいの人なので、2人の妹を出て行かせると、マリ・ホセには、「父さんには見せないで」と言って、ネックレスを服の下に隠す。そして、ホアンだけになると、ホアンは何をされるか不安になるが(3枚目の写真)、母は何も言わずにホアンを抱き締める。

アパートの中は、マリ・ホセの聖体拝領を祝う親戚や近所の人達でいっぱい。音楽が流れ、ホアンはマリ・ホセと一緒に踊る。踊り終わったホアンが、フルーツが浮かんだサングリア酒を飲んでいるのを見た父は、先日の不機嫌さとはうって変わって乾杯し、コップを置くと一緒に踊り始める。父の顔が極端に嬉しそうなので、ホアンも映画で一番の笑顔になる(1枚目の写真)。しかし、この幸せは一瞬して崩れ去る。愚かなマリベルは、ナンシー人形欲しさに、隠し場所に入り込み、1個盗み出して屋根から這い上がったところを、ベランダにいた父に見つかる(2枚目の写真、矢印は人形)。マリベルは、すぐにしゃがみ込み、隠し場所まで戻ると、ベッドの下に潜り込む。どうやって行き先を見つけたかは分からないが、父を先頭に、パーティに参加していた一部の人達が、“角にある古い家” の半分壊れたドアの前まで来ると、父がドアを蹴破って中に入り、盗品の山を見つける(3枚目の写真)。

父は 運搬用の一輪車に運べるだけ乗せると(1枚目の写真)、他の大勢の人達と一緒に警察署まで運んで行く。状況を把握した警察は、恐らくパトカーを出して、残りの盗品を署内に運び入れる。そして、その前にいたのは、例の悪の権化の署長(セニョリート)だ(2枚目の写真、矢印は盗品)。そして、一番 吐かせやすい相手として、ホアンが選ばれ、アパートで寝ていたホアンが警官によって起こされ(3枚目の写真)、署まで連行される。

ホアンは、後ろ手に手錠をはめられ、イスに座らされる。そして、署長(セニョリート)が何度も思い切り頬を引っ叩く。頬が赤くなっている。「シマゴには、誰がいた?」。「僕一人でやった」。さらに、猛烈な一発。「お前はバカか? 仲間がお前の立場にいたら、守ってくれると思うか? 誰が、監視カメラの場所を教えた? 誰の肩に上がってスプレーをかけた?」。「全部、僕一人でやった」。さらに、猛烈な三発(1枚目の写真)。「このアホウが! お前は、一番チビだからいいように使われてるんだぞ! あいつらが、お前に対して道徳心を持ってると思うのか? いつか、お前も、あいつら全員がゴミだと分かるだろう」。そう言うと、引き出しから大きなハサミを取り出し、ホアンの前まで戻ると、「ゴミだ、クソガキ、ゴミは私には何もできん」と言い、いきなりホアンの髪をつかむとハサミで切り始める。父がアパートに戻ると、ホアンが剃刀で頭をきれいに剃り上げていた。父は、ホアンのいる洗面台に入って行くと(2枚目の写真)、力づくで部屋から出すと、ホアンの部屋に連れて行く。そして、ズボンのベルトで、ホアンの顔や上半身を見境なく叩き始め、あまりの痛さにホアンの悲鳴が聞こえてくる。母は 何とか夫に暴力を止めさせようとするが、悲鳴は延々と続き、父が出て来た後には、全身にベルトで叩かれた赤い筋が残るホアンが、ベッドでうなだれていた(3枚目の写真)。ホアンは、何とかシャツを着ると、部屋を出て、「父さんは、僕を殴り続けないと… 僕を殺すまで。僕は、やめるつもりなんかないから」と言い残し、部屋に閉じ籠る。

この間の経緯は、脚本が不親切で良く分からない。①署長(セニョリート)は、どの程度ホアンの髪を切ったのか? ②なぜ、ホアンは自分で頭を剃り上げたのか? そして、最大の疑問は、先ほどの次のシーンに、いきなり下の1枚目の写真が来ること。彼は、少年院に入れられている。そして、髪は、剃った時から少し伸びている。③いつ、彼は少年院送りになったのだろう? ④自分で頭を剃ったのは、そのためなのか? 分からないことが多過ぎる。しかも、1枚目の写真は約5秒あるだけで、次の場面は少年院内の作業場。そこで、将来工員になってもいいように作業をさせられているホアンの髪は、元に近いくらいまで伸びている。作業場には、大人に近い 太った怖い男がいて、チラチラとホアンを見るので、ホアンも気になってその男の方を窺っている(2枚目の写真)。そして、ある日、ホアンが昼食を食べていると、テーブルの前の席にその男がやって来て座る。そして、「俺は、脱げ出すつもりだ。簡単だからな」と言い出す(3枚目の写真)。

「ここより厳重な場所からも逃げ出した。一緒に行こうぜ。その代わり、車を盗んで、マドリードまで連れてってくれ」。「何人で?」。「車の中か? お前と俺だけ」。「逃げ出す時は?」(1枚目の写真)。「できるだけ大勢。だが、みんな勝手な道を行く」。「いつ?」。「今、夕食後」。「いいよ」。「見てろよ、すごいから」。そして、食事が済むと、男は、警備員を押さえつけ首にナイフを当て、「動くな」と威嚇する。そのあと、収容されているほとんどの子供達が、廊下に出て来ると、一斉に出口の警護所に向かって走って行く(2枚目の写真)。あまりの人数に、一人しか残っていない係員は、逃げ惑うばかり。場面は夜から日中に変わり、どこかでメルセデスを盗んだホアンが男を乗せて向かった先は、野道の先の一軒のボロ屋。車がやって来た音を聞き、銃身がドアから出されるが、ドアを開けたホアンが、「ガビオット、僕だよ!」と叫ぶと、彼は「ペラのくそったれ。俺をビビらせやがって」と 笑顔になってドアから出て来る(3枚目の写真)。ホアンは、「ムルシアで会ったダチのディエゴだよ」と、紹介する。ガビオットは、「ダチを撃つとこだったぞ。お前が見えなかったからな」と言い、ホアンは、「運転者が見えなきゃ、僕が運転してるってことさ」〔小さいから見えない〕と、そんなこと常識とばかりに言い返す〔ホアンは、ガビオットの隠れ家をどうして知っていたのだろう?〕

ホアンとガビオットは、崩れたコンクリートの低い壁の上に空き缶やガラス瓶を置いて、射撃の腕を競う(1枚目の写真)。次の場面では、金と麻薬が欲しいガビオットは、3人で薬局を襲う。ホアンは監視役でドアに立たせて誰も来ないか見ていて、ガビオットが店主に拳銃を向け、「急いで 中身を寄こせ」(2枚目の写真)と、レジのお金を奪い取ると、次に、「アヘンを含むもの全部もだ!」と要求。店主は、「緊張しないで。私にも、君と同じ年齢の息子がいる」と落ち着かせようとする。すると、何を思ったのか、隣で銃を店主に向けていたディエゴが店主の下腹部に向かって発砲。店主は、崩れるように倒れる(3枚目の写真、矢印はディエゴの銃)。マドリードに向かう車の中で、ガビオットはディエゴに怒りをぶつける。「多分、あいつ死んでない。そして、俺たちを特定したら? 誰も、あんたのことは知らないだろうが… だが、ペラは有名だ。薬剤師がペラを特定し、それが俺に及んだらどうする?」。ホアンは、「あいつは誰も特定しないよ。心配し過ぎ」と言ってガビオットを宥めるが、ディエゴはうつむいたまま何も言わない。

マドリードに無事に着いたホアンは、ベゴのマンションを訪れる。髪の毛が元に戻るまで会っていなかったので、久し振りの訪問になる。玄関のインターホンを押しても反応がなかったが、幸い中から出て来た2人連れがあったので、そのまま交代に入って行く(1枚目の写真)。部屋の前まで行ってベルを押しても、当然返事はない。ホアンが1階に降りてくると、ベゴが車で送られてきて、運転席の男性とキスして、嬉しそうに別れる。しかも、その男は、よりによって、あの憎っくきセニョリートだ(2枚目の写真)。頭にきたホアンは、すぐにベゴの部屋の前まで戻る。ベゴが階段を上がって来ると、久し振りにホアンがいたのでびっくりする。そして、ホアンと一緒に部屋に入る(3枚目の写真)。

ホアンは、じっとベゴを見つめ続ける。ベゴは、長椅子に座ると、「座ったら?」と、自分の横に座るよう勧める。ホアンは、いきなり、手を上げると(1枚目の写真、矢印は叩く手)、ベゴの頬を引っ叩く。そして、自分のズボンに触るが、ベルトがないので、「ベルトある?」と訊く。ベゴが何も言わないと、キッチンの中を探し、棚の中から何かの機械用のゴムホースを引き抜くと、それを丸めてベゴの体を17回殴り付ける(2枚目の写真、矢印は殴るホース)。そして、長椅子の前の丸テーブルを思い切りひっくり返し、その隣の小テーブルを蹴り飛ばす(3枚目の写真)。そして、ベゴを睨みつけると(4枚目の写真)、ベゴとは永遠におさらばする〔11歳とはとても思えない、大人のような怖さ〕

その後、強盗団は復活し、ストッキングを被る方式で、真っ昼間に銃を持って店を襲う(1枚目の写真、矢印の赤いセーターがホアン)。ホアンは一番に飛び出して運転席に乗り、他の4人を乗せて車を出すが、すぐにパトカーが後を追い、銃撃戦となる(2枚目の写真、後部座席の左右の窓から乗り出した2人が銃撃)。新聞には、「“エル・ペラ” と彼のギャング、マドリード南部を恐怖で支配」という大見出し(3枚目の写真、その下には、「構成員は全員未成年」と書かれている)。他の新聞には、「危険な11歳の犯罪者」の文字も。映画では、ホアンは単なる運転係のように見えるが、確かな資料には、「7 歳で盗みを始め、4 年後にはすでに宝石店や銀行を強盗するギャングを率いていたエル・ペラ」と書いてあるので、彼はボスだった。

ここで、映画は、冒頭と待った同じ場面になる(1枚目の写真)。息子をじっと見ていた父が、「ホアン、あれ、息子さんじゃないの?」と訊かれて、黙って去って行くのも同じ。しかし、その先のアルベルトとの場面はもちろんなく、「2年前」と表示される直前の、アルベルトが、“結局CEMUから逃げ出さなかったホアン” をじっとみていた場面のから始まる。そこでは、ホアンは、もうCEMUの生徒で、アルベルトが新学期にあたり、新旧の生徒達に訓辞をしているのを(2枚目の写真)、窓の外から見ている(3枚目の写真)。アルベルトの訓示は、「今日、私たちはCEMUの新学期を迎えます。毎年、新しい友だちが加わります。あなたたちが最初に覚えるべきことは、基本的なルールです。『ここでは、毎日学ぶ』。すべてを分け・与え・共有することを学びます。命や物を大切にし、助け合うことを学びます。新しい級友の中には、学校に行ったことがない人もいるでしょう。少年院から移ってきた人もいるでしょう。他の皆さんが、最初にここに来た時のように。ですから、お互い、できるだけ親切にしましょう…」。

ホアンは、最初だけ見ていたが、あとは教室から離れ、アルベルトの車を優しく撫でた後、乗ろうとするがロックされていたので、構内の工事現場まで歩いて行く。そして、4輪のブルドーザーを運転している作業員に、「ねえ、そのブルドーザー、どのくらい早いの?」と声をかける(1枚目の写真)。作業員は、「知らんな。レースなんかしたことがない」と答える。「動かしてもいい?」。作業員は、相手が小学生の子供なので、冗談だと思い、「済んだら、好きなところへ行っていいぞ。だが、今は仕事中だ」と言ってしまう。そこで、ホアンは作業が済むまで待ち、作業員がブルドーザーを降りて、上半身裸になり、ホースから水を浴びていると、ブルドーザーに乗り込み 動かし始める。音でそれに気付いた作業員は、ホースを持ったまま追いかける(2枚目の写真、矢印はブルドーザーとホース)。ホアンは空き地でブルドーザーを自由に動かして楽しむ(3枚目の写真)〔4輪のブルドーザーの運転方法は、自動車とは違うようなので、こんなに簡単に自由に動かせるようになるとは思えない〕

その夜、ホアンはアルベルトの部屋に呼ばれる。場面は、ホアンが、「仕事が終わったら、好きなところに行っていいって、言ったから」と弁解するところから始まる。アルベルトは、「ホアン・カルロス、私が言うことを注意して聞いて。私は、君が悪戯っ子で、他の生徒に比べてずっと活動的なことに文句は言わない」(1枚目の写真)「君が、自分の思っていることを皆に知らせようと、注意を引きたがる癖にも我慢できる。私が耐えられないのは、君がバカをやり、私も同じようにするだろうと考えてしまうことだ!」(2枚目の写真)「君も私もバカではない。それとも、私が間違っていて、君はバカなのか?」。「分かんない」。「もし事故を起こしていたら、どうなったか考えたことはあるのか?」。「運転中には、事故は起きない。悪いことが起きるのは、停まってる時だよ」。「今週末、君にサプライズを考えていた。車のサーキットに連れて行って、君の運転を…」。ここで、ホアンが割り込む。「どうだっていいよ 」。アルベルトは妨害を無視して続ける。「…モータースポーツ連盟の選考委員に見てもらおうと。プロのレーサーになれるなら、興奮するんじゃないかと思ったから」と話す(3枚目の写真)。「だが、まず、私に見せてもらわないとな。君が “派手好き” を止めるのを」 の説明。この部分のスペイン語は「Eso me lo paso por el forro de los huevos」。直訳すれば、「卵の裏を通る」。WordReference.comというサイトで、質問者Aに親切な人Bが答える形式での解答を見ると、英語の「It doesn't matter to me(どうでも構わない)」や「I give a shit(興味ない)」の意味で使われるスラングだとあった。そこで、「どうだっていいよ」と訳した。この映画のスペンイ語は、この一例で示すように、かなり難しくて苦労した(英語字幕は役立たず)〕

その夜、ホアンと、数人の友だちが話し合っている。内容が面白かったのは、一人の子が、「ブルドーザーで何がしたかったの?」と訊いた時のホアンの答え。「前輪を浮かせて後ろの2輪で走ろうとしたけど、時間がなかった」〔かつて、自転車でやったのと同じこと〕。別な子が、「あと何年か経つと、おじさんは きっと専属の運転手にさせるよ。ミゲル・ボセやアントニオ・モリーナ〔有名な歌手〕は、彼の友だちなんだ」と言うと、ホアンは、「僕は、運転手になんかなりたくない」ときっぱり。その時、パトカーがやって来て、アルベルトに紙を渡し、何事か説明している(1枚目の写真)。それを全員が見て(2枚目の写真)、「どうしたのかな?」と心配する。しばらくして、アルベルトが入って来て、沈痛な面持ちで 「ホアン・カルロス、悪い知らせを伝えないといけない。悲しい知らせだ。私の部屋に来てくれるか?」と言う。ホアン:「みんなの前で、なぜ言わないの?」。「君の友だちは車で逃げる途中、事故に遭った」。「みんな死んだの?」。アルベルトは何も言わない。それで、死んだと悟ったホアンは、「誰がいたの?」と訊く。アルベルトは4人の名前を挙げる(3枚目の写真)〔彼は本名を言うが、映画の中ではニックネームしか出て来ないので、観客には誰だか分からない〕〔結局、死んだのは、インディオペイロス(?)、ペドリーサ(台詞2回)、ペリキート(「2年目」の最初に登場)の4人〕。「運転は誰が?」。「それが重要か?」。「どうか、教えて」。運転していたのはペリキートだった。ホアンは、かつて、「運転、めちゃ下手なくせに」と本人に告げたことがあるので、「誰が、ペリキートなんかに運転させたのかな? みんなどうかしてたんだ」と言う。そのあと、ホアンは、アルベルトを、「みんなあなたのせいだ」と責める。「あなたが僕をここに連れて来なかったら、僕が車を運転してて、何も起きなかったろうから」。アルベルトは、「もしもの結果、どうなっていたかは、誰にも分からん。私としては、君が、彼らと一緒に殺されるのを救ったと考えたい」と言う〔あとで、正解だったと分かる〕

悲しくなったホアンが、敷地の外れでポツンと座っていると。「ペラ!」と呼ぶ声が聞こえる。ホアンが声のした方を見ると、野原との間に立ったフェンスの向こうにチャーリーがいた。ホアンが走って行くと、「ペラ? もう聞いたろ?」と話しかける。「あんた、一緒に行かなかったの?」。「ハイ〔puesto〕だったから、置いてかれた。まさかヤク〔caballo〕が俺の命を救うとはな」。「なぜ、中に入らないの? ここは、出入り自由だよ」。「お前が出て来い。入るなんてゾッとする」。フェンスの外に出たホアンに、チャーリーは、恐ろしい話をする。「あのな、インディオの両親が言ったんだ。あれは、セニョリートが俺たちを消すための罠だったと」。「どんな罠?」(1枚目の写真)。「みんなは(セニョリートに)指示された場所に向かってた。そしたら、崖の真横の最悪のカーブに警察の検問所が。もし、お前が運転してたら…」〔何という恐ろしい署長〕。ホアン:「もし、それが巧妙な罠だったら、僕も死んでたよ。あんただって、その車に乗ってたかも」。そもそも、なぜチャーリーがわざわざ、こんな所まで来たのか分からないが〔ホアンが柵の近くまで来ないと会えないので、不自然極まる行動〕、彼は 「俺は一文無しだ」と金をせびる。ホアンは小額紙幣を取り出し、「ここじゃ、誰も使わない」と言うが、お金は渡さない。「車をいただいて〔pillamos〕ここを出てこうぜ。お前と俺とで」。「分かった。だけど条件がある。僕が気に入る車が来るまで、待ってること」。ホアンは、チャーリーを連れて警察署の前まで行き、署長の車が来るのをじっと待つ。そして、車がやってきて、いつものように鍵を残したまま署長が出て行くと、車に乗り込んだホアンは署の外で隠れていたチャーリーを乗せ(2枚目の写真、矢印)、そのままチャーリーの家まで行って彼を降ろす〔「チャーリーは、一体何のためにわざわざホアンに会いに行ったのだろう?」と思わせる結末〕。そのあとホアンは、車をひと気のない場所まで持って行くと、ガソリンタンクからガソリンを吸い出してボトルに入れ、それを車内に振り撒き(3枚目の写真、矢印)、火を点けて車を炎上させる(4枚目の写真)。4人の仲間を殺したセニョリートに対する怒りの制裁だ。

どうしてホアンの犯行と分かったのかは謎だが、次のシーンでは、ホアンは手錠をかけられて署の長椅子に座っている(1枚目の写真、矢印は手錠)。するとそこにアルベルトが現われ、いつもの警官に、「手錠を外して下さい」と頼む。そして、落胆したホアンを外に連れ出し(2枚目の写真)、乗ってきたポルシェに乗せる。アルベルトが、「ホアン・カルロス、両親が君をどうしたらいいか分からないからといって、君を愛していない訳じゃない」と、慰めると、ホアンは、「好きでも嫌いでも、どうだっていい」と突っぱねる。「それは君の考えで、今は、議論する気はない。ただ、これだけは知っておいて欲しい。君は両親を困惑させたが、私は困惑などしていない。なぜだか分かるか?」〔ここからのスペイン語は、とても難しく、誤訳がある可能性が高い〕「私が狂ってるからだ。怖いほど。だが、電気ショックがあるような古い精神病院では、治すことはできん。私たちは無敵だ! 私は、空想の世界に住みたい〔Me sale de los huevos: 直訳は「卵から出てくる」〕、君がその中で幸せに暮らせるようになるなら〔por mis huevos: 直訳は「私の卵のために」〕。だが、それはお互い叶わないことだ。分かってるだろ? なら、私がなぜ、こんなことをしているか、君に分かるか? 君も狂ってるからだ。狂ったように走る。できるだけ速く、一番に着こうと」。ここで、アルベルトはホアンを助手席から降ろし、運転席の方に押しやる。「だから、他のことは忘れて欲しい。復讐も憤慨も忘れ、君が他の誰よりも巧いと確信していることをやるんだ」(3枚目の写真)「思い切り走れ」。

ある日、ホアンは、自分の部屋の隣に入っているエロイからの応答がなく、ドアも開かないので、外から窓の雨戸をこじ開けようとするが、びくともしない(1枚目の写真、矢印)。そこで、2階から飛び降りて(2枚目の写真、矢印)、ブルドーザーの置いてある場所まで走って行き、ブルドーザーを運転して建物の前まで来ると、ショベルを巧みに動かして、雨戸を外す(3枚目の写真、矢印)。

そして、鉄のブームの部分を駆け上がって、エロイの部屋に登り(1枚目の写真)、中に入ると、エロイが気を失って机の上に頭を乗せている。そして、その横に接着剤の缶が開いたまま倒れ、顔の下に流れ込んでいる(2枚目の写真)。そこに、ブルドーザーの突進音でアルベルトを先頭に大勢の生徒達が駆け付ける。エロイの顔は、机に引っ付いて離れないので、大工がノコギリで机の上板を切り、アルベルトがエロイを抱いて駐車場に走って行く(3枚目の写真、矢印は顔に付いたままの机の切れ端)。気をきかせたホアンが、置いてあった車に乗ってその前に急停車し、救急車よりも早く病院に連れて行く。

1981年のクリスマスが終わり、お邪魔虫のチャーリーがまたやって来て、フェンスの外からホアンに話しかける。「みんな一緒だった頃のこと覚えてるか? すごく楽しかったな、ペラ。俺たち、最高だった〔la hostia en vinagre(直訳: 酢の宿主)〕。遊んで、車でぶったくり〔palos〕やって、金を使い、売女とやり、好きなトコに行った」(1枚目の写真)。ホアンは、「みんなから聞いたから覚えてるんだよね。だって、あんたいつも(麻薬やって)寝てたから」と指摘する。「ペラ、意地悪だな〔Qué mala leche tienes(直訳: 悪い牛乳持ってるな)〕。俺は 確かにすぐねんね〔ponía〕したが… 周りのことには気付いてたぞ。ここに来てから、お前はホントに意地悪になった。ひねくれモンだ。俺は この(施設の)外にいるが、お前と同じくらいひねくれてる。年のせいに違いない。俺たち、大きくなったからな。もう、何にも興奮しなくなった。お前より ずっとひどくな。少なくとも、お前は新しい人生を始め、行儀よくなり、ケンカもやめ、計画も立ててる。俺はただのジャンキー〔麻薬常習者〕だ。お前は勝ったんだ、ペラ。俺は負けた。俺はただのガラクタ〔coñazo〕、お前は 飛ぶ金玉〔mosca cojonera〕だ」。「そんなこと言うなよ。僕ら仲間だし、これからもそうだ」。それを聞いたチャーリーはフェンスから離れて去って行く。ホアンは、放っておけばいいのに、「どこに行くの? 待って!」と、フェンスから出て後を追う。チャーリーは 「頼みがある。ヤク〔pillar caballo〕とは関係ない。サラマンカのじいちゃんの町まで連れてって欲しいんだ。そこで家族と会わせてくれたら、二度と迷惑はかけん」と、ひどい嘘を付く。それを信じたホアンが、車を盗んでチャーリーを送る。それまで異常に多言だったチャーリーが、急に黙ってうつむいているのでホアンは不審に思う。不安は的中し、ある場所までさしかかると、道路を挟んで並んだ警察車両が一斉にライトを点け、「警察だ、止まれ!」と命令する(2枚目の写真)。「エンジンを切って車から降りろ!」。チャーリーは、うつむいたまま、「俺は警告したからな。ちゃんと言ったぞ。俺はただのジャンキーなんだ」と弁解し、それをホアンは、裏切者を見るような白けた顔で見る。そして、見えない場所で、この “作戦” を指示した署長(セニョリート)が一瞬映る(4枚目の写真)。あくまで、極悪非道の人非人だ。

ホアンは、家庭裁判所もしくは調停所のような場所に連れて来られる(1枚目の写真)。そこには、CEMUのアルベルトとその女性代理人(弁護人?)、ホアンの両親の4人がいる。そこを仕切っている女性(裁判官?)が、「ホアン・カルロスをどうしましょう? 彼が CEMU を離れたのは 2 回目で、警察は彼を盗難車で逮捕しました」と発言する、CEMUの女性は、「彼は、以前 少年院から暴力的に逃げ出しました。彼は CEMU に数か月滞在しており、2回の逮捕は、以前の記録に比べれば何でもありません」と、CEMUでの滞在がいい結果をもたらしていると強調する(2枚目の写真)。裁判官:「個人的に、私は、あなたが設立した施設が好きです。しかし、好きな時に出て行くことのできる場所に、この子がいることを知っていて、市民をどうすれば安心させられるでしょうか?」。CEMU:「100%安全などという完全無欠な仕組みはありませんが、CEMU は良い仕事をしていると思います。彼は、かつて、毎週、同じ日にでも数台の車を盗んでいました。そして、彼は暴力的な強盗にも参加しました。しかし、今では何もありません」。裁判官:「あなたはご承知でしょうが、CEMUには多くの敵がいます。速やかに小さな失敗を認め、少年院に送ったらどうでしょうか?」。ここで、それまで黙っていたホアンの母が口を開く。「アルベルトおじさんにできないなら、誰にもできません」。

そして、夜、手錠をはめられたまま、防護金網付の囚人護送車に乗せられたホアン。悲惨な行き先を思わせるが、着いた先はCEMU。先輩がアルベルトの部屋をノックし、「おじさん、警察がホアン・カルロスを連れてきたよ」と知らせる(1枚目の写真)。そして、「話したい?」と訊くと、一言、すげなく、「いいや」。がっかりしたホアンは、ベッドに入っても、悲しくて泣いてしまう(2枚目の写真)。耐えがたくなって起き上がると、洗面所に行き、洗面器の上に置いてあったブラシを手に取ると、それで自分の顔を叩き始める。ヘアブラシは結構固いので、顔中血だらけになる(3枚目の写真)。

夜、トイレに行って、ホアンを見た子が、走ってアルベルトに知らせに来る。アルベルトは、ホアンの顔を拭きながら、「ホアン・カルロス、目は大丈夫か?」と心配する(1枚目の写真、矢印はシャツまで垂れた血)。しかし、ホアンは答えない。「ホアン・カルロス、答えるんだ。目も叩いたのか?」。それでも答えない。そこで、目の前に手を置いて、「見ろ」と言う。うつむいたまま見ようとしないので、「ホアン・カルロス、見るんだ!」と怒鳴る(2枚目の写真、矢印は手)。ホアンはアルベルトの手の動きに合わせて顔を動かすので、目に異常がないことが分かり、アルベルトはホッとする。そこで、「どうした? なぜこんなことを?」と尋ねる。「あなたのせい」。「誰のだって?」。「あなただよ。何が起きたか、なぜ訊かなかったの? 僕が連れて来られた時、怒鳴りもしなかった。僕のことなんか、どうだっていいんだ。でしょ?」。そして、アルベルトが肩に優しく触ろうとすると、手を振り払って、「ほっといてよ!」と怒鳴る。「いつもみたいに、僕を叱るべきだったんだ。そのために ここにいるんでしょ? 以前は、そうだった。ちゃんと叱ってくれた」。それを聞いたアルベルトは、思わずホアンを抱き締め、今度は、ホアンも抱かれたままになる。「なぜ、僕を叱らなかったの? 僕なんか、どうでもいいんだ。みんなと同じように」(3枚目の写真)。

映画はここで終わり、後は、事後談が第三人称で語られる。「ホアン・カルロスは、私たちにもう一度機会を与え、私たちは彼の信頼に応えた。彼はCEMUに留まり、学校で読み書きを覚えた。彼は犯罪から手を引き、モーターレースに専念した。20歳までに、彼はフォーミュラ・ルノー・スペイン〔España de Fórmula Renault〕で優勝や準優勝をしたが、F1ドライバーになることはあきらめた」。この記述は完全な間違い。そもそもフォーミュラ・ルノー・スペインは1991年から始まったもので、その時点で彼は20歳を超えている。そして、優勝者に彼の名はない。唯一出て来るのは、ルノー・スペイン・カップ〔España de la Copa Renault〕というランクの低い大会で、それも本戦ではなく、若いドライバー用のCopa Iniciaciónで1991年に1回だけ優勝している(22歳)。他の “エル・ペラ” に関するサイトを見ていても、フォーミュラ・ルノー・スペインでの優勝のことしか書いてなく、誤情報が拡散している。「彼は現在、最も人気のある “ヨーロッパ車の新モデルのテスト・ドライバー” の1人だ。そして、自動車専門のジャーナリスト。彼はまた、国家治安維持部隊に回避運転を教えている。現在、彼は CEMU に住んで働き、彼に似た子供たち更生の手助けをしている」。

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